先週の記事は「米財務省の一手でドルが7ペア全敗」という見出しでした。その1週間後、まったく同じドルが7ペア全勝しています。起点は8月28日(金)、ウォーシュFRB議長が議長として初めて臨んだジャクソンホール会議での講演。目先の利上げ・利下げの道筋ではなく、インフレ抑制と構造改革という長期の課題に軸足を置いた内容が「タカ派」と受け止められ、米10年債利回りは前日比+1.027%の4.72%へ、ドルは全面高になりました。米ドルの強弱指数は-0.9952から+0.8122へ1.81ポイント改善し、8位から首位へ+7ランク。0勝7敗から7勝0敗への完全反転は当サイトの記録上初めてです。裏側で、前週7ペア全勝で首位に立ったばかりのスイスフランが7位へ-6ランク転落しました。「完璧な全方位型で勝った通貨は翌週に崩れる」は、これで7例中7例。最弱は8月24日の小売売上高が振るわなかったNZドル(0勝7敗)で、豪ドルだけが7月CPIの上振れを支えにドルに肉薄しています。
| 順位 | 通貨 | 強弱指数 | 前週 | 可視化 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 🇺🇸 USD | +0.8122 | 8位 ⬆ | |
| 2 | 🇦🇺 AUD | +0.6464 | 3位 → | |
| 3 | 🇯🇵 JPY | -0.0075 | 7位 ⬆ | |
| 4 | 🇪🇺 EUR | -0.1284 | 4位 → | |
| 5 | 🇬🇧 GBP | -0.1387 | 5位 → | |
| 6 | 🇨🇦 CAD | -0.3529 | 6位 → | |
| 7 | 🇨🇭 CHF | -0.3879 | 1位 ⬇ | |
| 8 | 🇳🇿 NZD | -0.4431 | 2位 ⬇ |
| 順位 | ペア | 変化率 | 方向 |
|---|---|---|---|
| 1 | USD/NZD | +1.106% | USD首位 / NZD最弱 |
| 2 | USD/CHF | +1.056% | USD首位 / CHF7位 |
| 3 | USD/CAD | +1.038% | USD首位 / CAD6位 |
| 4 | AUD/NZD | +0.990% | AUD2位 / NZD最弱 |
| 5 | AUD/CHF | +0.862% | AUD2位 / CHF7位 |
| 順位 | ペア | 変化率 | 方向 |
|---|---|---|---|
| 最下位 | GBP/AUD | -0.689% | GBP5位 / AUD2位 |
| -2 | EUR/AUD | -0.677% | EUR4位 / AUD2位 |
| -3 | JPY/AUD | -0.627% | JPY3位 / AUD2位 |
今週の為替をひとつの材料で説明するなら、これです。ジャクソンホール会議は8月27日から29日にかけて開かれ、28日(金)の日本時間深夜、ウォーシュFRB議長が議長として初めて講演しました。テーマは「金融革新:決済と政策への含意」です。
もともとウォーシュ議長は先行きの金融政策を示唆するフォワードガイダンスに否定的で、今回も目先の利上げ・利下げの道筋を語る内容ではありませんでした。講演では、コミュニケーション手法の見直し・バランスシート適正化の検証・インフレ測定指標の拡充・デジタル決済への対応・準備預金規模の最適化という5つの改革タスクフォースが進行中であることが示されています。市場はこれを「短期の金利のヒントを求めた市場に、物価安定の長期戦を突きつけた」と受け止め、米10年債利回りは一時4.69%まで上昇、終値は前日比+1.027%の4.72%。ドル円は159.41円まで弱含んだあと160.20円まで上昇して引け、ユーロドルは1.1658ドルから1.1578ドルへ、ポンドドルは1.3599ドルから1.3527ドルへ下落しました。
先週このレポートは、8月19日(水)の米財務省による長期国債バイバック倍増がドル全面安の起点だったと書きました。今週のドル全面高の起点は8月28日(金)のFRB議長講演です。9日間で、ドルを動かした当局が財務省からFRBへ入れ替わり、方向も正反対になりました。
金利の動きを並べると分かりやすくなります。先週は「超長期は財務省が押し下げ、中期はインフレ警戒で上昇」というねじれで、金利が上がっているのにドルは全面安でした。今週は米10年債利回りが週半ばに4.62%まで低下したあと、金曜の講演を受けて週間高値4.73%近辺まで戻して引けています。週間の終値では-0.380%とわずかな低下ですが、週末にかけての戻し方がそのままドル高になった形です。レンジ内位置は94.8%(先週98.3%)で、4.6%〜4.75%の狭い範囲での高止まりが続いています。
先週このレポートの主役は、7位から首位へ+6ランク駆け上がったスイスフラン(+0.7321、7ペア全勝)でした。今週のフランは1位から7位へ-6ランク、指数は-0.3879で1勝6敗。勝てたのは最弱のNZドル相手のCHF/NZD(+0.077%)だけです。
先週の記事で、当サイトはこう書きました。「フランの強弱は安全通貨かどうかでも構造変化でもなく、その週にドルが買われたか売られたかでほぼ決まっている」「首位に立った以上、来週は全方位型の勝者は翌週に崩れやすいという経験則の対象にもなる」。今週の結果は、この2点をそのまま裏づけました。SNBの政策には何の変更もありません。変わったのはドル側だけです。USD/CHFは週間+1.011%の0.8093で、先週割り込んだSMA25(0.8084)とSMA50(0.8087)を取り返して4本すべてのSMAの上へ戻りました。
先週は「3週続いた分裂が解消してNZD2位・AUD3位」と書きましたが、今週は2位AUDと8位NZDへ真っ二つ、指数差1.0895ポイントです。今回は外部要因ではなく、両国それぞれの経済指標が分裂の理由になっています。
豪州側は好材料が2つ並びました。8月25日(火)に公表されたRBA議事要旨で、8月会合において追加利上げを支持する意見が複数あったことが明らかになり、翌8月26日(水)の7月CPIは前年比+3.5%(予想+3.3%)、前月比+1.0%(予想+0.9%)、トリム平均+3.6%(予想+3.5%)とすべて市場予想を上回りました。インフレが鈍化していないことがRBAの追加利上げ観測を支え、豪ドル円は113.94円前後から114.20円付近へ上昇しています。8月27日(木)の民間設備投資が前期比減少だった点は逆風でしたが、影響は限定的でした。
8月24日(月)、トランプ政権がイランへの新たな経済制裁を発表しました。核開発などへの関与を理由に60を超える個人・企業に制裁を科すほか、イランとデジタル資産などの取引をした第三国にも制裁を発動する内容で、重点は航空・海運/デジタル資産/金/通貨リアル/兵器関連技術の5分野です。普通なら原油高につながる材料でした。
ところが実際は逆でした。翌8月25日(火)、米国とイランの戦闘終結に向けた交渉が進むとの観測が広がり、ホルムズ海峡の通航回復でペルシャ湾岸からの輸出が急回復し市場が供給過剰に転じるとの見方が優勢になります。WTI原油は週間-4.158%の83.44ドル、週間安値は79.62ドルで80ドルの大台を割り込む場面もありました。市場が見ているのは制裁の見出しではなく、実際に原油が船で運ばれるかどうかだということです。
VIX指数は週間-4.627%の14.43まで低下し、週間安値14.13が100日間安値を更新しました。レンジ内位置は3.3%(先週6.9%)で、SMA5(15.09)・SMA25(15.82)・SMA50(16.51)をすべて下回っています。月間では-30.155%と、当サイトが追う12銘柄で最大の下落率です。
株式は落ち着いた1週間でした。NYダウは+0.531%の53,560ドルで3週ぶりの反発。日経平均は8月26日(水)のエヌビディア決算(売上高962億ドル・前年同期比+106%、次期見通し1,080億ドル)を好感しきれず8月27日に3日ぶり反落しましたが、金曜8月28日は66,405.56円・先週末比+389.20円(+0.59%)で引けています。貴金属は3品目そろって反落し、銀-3.420%・白金-2.851%・金-2.595%。先週の急騰と同じ理屈が、ドル高で反対向きに働きました。
最弱から首位へ+7ランク。USD/NZD(+1.106%、今週最大の上昇率)、USD/CHF(+1.056%)、USD/CAD(+1.038%)、USD/GBP(+0.828%)、USD/EUR(+0.794%)、USD/JPY(+0.740%)、USD/AUD(+0.122%)と7ペアすべてで勝利する完璧な全方位型USD高です。指数は-0.9952から+0.8122へ1.81ポイントの改善となりました。
材料は8月28日(金)のジャクソンホール講演に集約されます。加えて8月26日(水)の米7月PCEデフレーターも下地になりました。総合は前年同月比+3.7%と市場予想の+3.6%を小幅に上回り、コアPCEは+3.3%で予想どおり・前月から横ばい。市場が織り込む9月の利上げ確率は4割弱にとどまる一方、12月までの追加利上げ確率は7割程度まで上がっています。「9月ではないが、年内には」という読みが、週後半の金利上昇とドル高を支えました。
6勝1敗で、唯一の黒星はAUD/USD(-0.122%)。ドルが全面高になった週に、そのドル以外の6通貨すべてに勝ったことになります。AUD/NZD(+0.990%)、AUD/CHF(+0.862%)、AUD/CAD(+0.802%)、AUD/GBP(+0.689%)、AUD/EUR(+0.677%)、AUD/JPY(+0.627%)と、勝ち幅も一貫して大きめです。
支えは国内のインフレ指標です。8月26日(水)の7月CPIは前年比+3.5%・前月比+1.0%・トリム平均+3.6%と3つとも市場予想を上回り、前日8月25日のRBA議事要旨で「8月会合において追加利上げを支持する意見が複数あった」ことも判明していました。チャート面での強さは際立っており、AUD/USD(0.7162、週間-0.109%)は下げ幅がごくわずかなうえ、週間高値0.7208が75日間高値を更新。AUD/JPY(114.629円、+0.565%)も週間高値114.959円が75日間高値で、SMA200乖離率+3.862%は15ペアで最大のプラスです。さらにEUR/AUD(1.6170、-0.677%)は4週続落で週間安値1.6158が75日間安値、SMA200乖離率-3.267%は15ペアで最大のマイナスでした。
7位から3位へ+4ランク。ただし指数は-0.0075とほぼ完全なゼロで、5勝2敗の中身も「ドルと豪ドルには負け、残り5通貨には勝った」というだけです。勝ち幅もJPY/CHF(+0.377%)、JPY/NZD(+0.352%)、JPY/CAD(+0.300%)、JPY/GBP(+0.162%)、JPY/EUR(+0.123%)と小さく、円が買われたわけではありません。
実際、USD/JPYは週間+0.740%の160.038円で160円台を回復しています。日本側の材料も円買いにはつながりませんでした。8月27日(木)、氷見野日銀副総裁が埼玉県の金融経済懇談会で講演し、市場は9月利上げを約8割織り込んだうえで「地ならし」を期待しましたが、利上げに前向きな姿勢はにじませたものの明確なシグナルは出ず、円が再び売られました。翌8月28日(金)の8月東京都区部CPIは生鮮食品を除く総合が前年比+1.8%で7か月連続の2%割れ(総合+1.9%、生鮮・エネルギーを除く総合+2.0%)。政府の電気・ガス代補助とコメ価格の下落が効いています。
4勝3敗で4位。3週連続で4位を維持しており、順位の安定という点では8通貨で最も落ち着いています。勝ったのはEUR/CHF(+0.247%)、EUR/NZD(+0.234%)、EUR/CAD(+0.207%)、EUR/GBP(+0.008%)で、負けたのはEUR/USD(-0.794%)、EUR/AUD(-0.677%)、EUR/JPY(-0.123%)。
ユーロドルは1.1582で週間-0.812%と下落しました。先週このレポートが「最後の壁だった200日線1.1629を突破し4本すべての上へ」と書いたばかりのSMA200(現在1.1631)を、1週間で再び割り込んでいます。週間高値1.1687まで伸びたあと、金曜の講演後に週間安値1.1578まで一気に売られ、ほぼ安値で引けました。SMA25(1.1562)・SMA50(1.1485)・SMA100(1.1571)の3本は維持しています。
3勝4敗で5位。EURとの差はわずか0.0103ポイントで、実質的には同値です。両者の直接対決であるEUR/GBP(+0.008%)は28ペアで最も動かなかったペアで、この序列は「ユーロがポンドに勝った」というより「引き分けだった」と書くのが正確でしょう。
ポンドドルは1.3533で週間-0.806%と4週ぶりの下落。それでも4本すべてのSMA(1.3503/1.3419/1.3439/1.3433)を上回る位置は維持しました。乖離率はSMA50で+0.848%、SMA25では+0.220%まで縮小しています。先週の乖離率はSMA50で+1.884%でしたから、1週間で半分以下です。EUR/GBPは0.8558で先週と1ミリも変わらない終値でしたが、中身ではSMA50(0.8553)を上回ったことで下降パーフェクトオーダーが解消され、SMA配列は「混在」に変わりました。
2勝5敗で6位。勝てたのはCAD/NZD(+0.049%)とCAD/CHF(+0.019%)という、いずれも0.05%未満のほぼ引き分けだけです。USD/CAD(+1.038%)は15通貨ペアで最大の上昇率で、先週割り込んだばかりのSMA200(1.3844)を1週間で回復しました。ただしSMA25(1.3946)・SMA50(1.4048)・SMA100(1.3915)は依然として上方にあります。
直接の理由は原油です。8月24日(月)の対イラン追加制裁にもかかわらず、翌25日の米イラン交渉進展観測とホルムズ海峡の通航正常化でWTIは週間-4.158%の83.44ドル、週間安値79.62ドルで80ドル割れ。先週の下げが原油高というカナダ側の材料に支えられていたぶん、その支えが外れた途端に戻されました。
首位から7位へ-6ランク、指数は+0.7321から-0.3879へ1.12ポイントの悪化。1勝6敗で、勝てたのは最弱NZD相手のCHF/NZD(+0.077%)だけです。USD/CHF(+1.056%)、AUD/CHF(+0.862%)、JPY/CHF(+0.377%)、EUR/CHF(+0.247%)、GBP/CHF(+0.231%)、CAD/CHF(+0.019%)と、X/CHFの6ペアすべてが上昇しました。
SNBの政策には何の変化もありません。先週このレポートは「フランの強弱は安全通貨かどうかでも構造変化でもなく、その週にドルが買われたか売られたかでほぼ決まっている」と書き直しました。今週はその読み替えがそのまま機能しています。ドルが全面高になれば、ドル資産へのキャリートレードの調達通貨として使われるフランは自動的に売られる──先週と正反対の向きに、同じ経路が働いただけです。USD/CHF(0.8093、+1.011%)は4本すべてのSMAの上へ戻りましたが、SMA配列は「上昇パーフェクトオーダー」から「混在」へ変わっています。
2位から最弱へ-6ランク、7ペア全敗の完璧な全方位型NZD安です。NZD/USD(-1.106%)、NZD/AUD(-0.990%)、NZD/JPY(-0.352%)、NZD/GBP(-0.294%)、NZD/EUR(-0.234%)、NZD/CHF(-0.077%)、NZD/CAD(-0.049%)と、7通貨すべてに負けました。
材料は8月24日(月)に発表された4-6月期小売売上高の前期比-0.5%です。個人消費の弱さが確認され、RBNZの追加利上げ観測が後退しました。NZD/USDは0.5915で週間-1.094%と15通貨ペアで最大の下落率。先週は同じNZD/USDが+1.489%で15ペア最大の上昇でしたから、2週続けて「最大の上昇」と「最大の下落」を往復したことになります。4本すべてのSMA(0.5886/0.5811/0.5844/0.5844)の上は辛うじて維持しました。
順位表を上から見ていくと、2位AUD(+0.6464)と3位JPY(-0.0075)のあいだに0.6539ポイントという突出した断層があります。1位と2位の差が0.1658、3位から8位までの6通貨は-0.0075〜-0.4431の0.4356ポイント内に収まっていることを考えると、この断層だけが異質です。
USD(1位+0.8122)とCAD(6位-0.3529)で指数差1.1651ポイント。先週は8位と6位でグループ平均-0.54の最弱グループでしたから、1週間でグループ平均が0.77ポイント改善したことになります。ただし中身はドルの独り相撲で、カナダドルは6位から動いていません。
AUD(2位+0.6464)とNZD(8位-0.4431)で指数差1.0895ポイント。先週は2位・3位に並んで「3週続いた分裂が解消」と書いたばかりですが、1週間でふたたび順位表の両端近くへ引き離されました。AUD/NZDは+0.990%で28ペア中4番目の上昇率です。
EUR(4位-0.1284)・GBP(5位-0.1387)・CHF(7位-0.3879)で、グループ平均-0.22は今週唯一のマイナスグループです。EURとGBPは0.0103ポイント差でほぼ同値、3週連続で4位・5位に並んでいます。一方でCHFだけが首位から7位へ崩落し、グループ内の距離が広がりました。